最高裁判例
事件番号: 昭和43(オ)2
事件名 :建物収去土地明渡等請求
裁判年月日: 昭和44年7月31日
参照法条 :借地法9条

主   文 原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理 由
上告代理人の上告理由について。 原判決は、上告人と被上告人らとの間の各土地賃貸借契約において一時使用の目的をもつて貸借する旨の明示の合意があることを認定しながら、他方、被上告人らは、それぞれ本件旧土地を前所有者から賃借し、その地上に、粗末ではあるが仮設建物ではなく、店舗および住居として相当期間使用にたえる建物を所有しており、その店舗を失うことは生活の基礎を失うものであつて、ここから立退く考えはまつたくなかつたこと、

上告人は、被上告人らの営業や生活を知りながら、昭和二七年ころ本件旧土地を買い受け、従前の賃貸借を継続する趣旨で、被上告人らとの間に本件各賃貸借契約を締結し、公正証書を作成したものであること、

当時上告人としては、本件旧土地が都市計画によつて整理され、換地が与えられれば、そこにビルを建てる考えで、それまでに土地の明渡を得られれば好都合であると思つたが、都市計画実施の時期が何年先か分明でなく、被上告人B1との契約においては、賃貸期限を一応前所有者との賃貸借の残存期間である昭和二七年四月一日から昭和三二年三月末日までと定めたが、期間満了のとき話合いすることを予定し、被上告人B2との間においては、賃貸期間を都市計画事業実施のため明渡を必要とする日までと定めたものの、その到来の時期は当時予想しえなかつたこと、

そして、上告人が被上告人B1からは昭和三六年七月分まで、被上告人B2からは同年九月分までそれぞれ賃料を受け取つていることからも、賃貸借期間に重きを置いていなかつたものと窺知できること、

などの事実を認定し、これら事実関係によれば、上告人と被上告人らとの間において、一時使用のための賃貸借契約を締結すべき客観的合理的理由は存在しなかつたから、前記合意にもかかわらず、本件各賃貸借契約は一時使用のためのものとは認められず、これを前提とする上告人の請求は失当であるとしているのである。

土地賃貸借が一時使用のためのものかどうかは、契約の文言にかかわらず諸般の事情を考慮して判断されるべきものであることは、原判示のとおりである。しかし、本件各賃貸借契約においては、特に公正証書を作成し、木造バラツク建建物の敷地として一時使用の目的をもつて賃貸するものであつて借地法の適用を受けない契約であることを当事者双方が承認する旨を明記し、かつ、普通家屋の設置等をも禁ずる旨を約しているのであつて、かかる約定は、それが借地法の規定の適用を潜脱する意図に出たものではなく、その合意が当事者の真意に基づくものと認められる合理的理由が存するならば、その効力を認めてよいものというべきである。

しかして、原判決の認定したところによれば、上告人において、前示のように、都市計画による整理後は換地上にビルを建てる計画があり、本件契約当時すでに神戸国際港都建設法が施行され、神戸市が同法に基づく区画整理のための測量に着手しており、二年後の昭和二九年には本件旧土地に対する仮換地の指定があつたというのであるから、その時期は確定していなかつたにせよいずれ区画整理が実施されるものであることは、当時においても確実な事実として予定されていたことであると推測するのが相当であつて、そうであるからこそ、被上告人B2との間の契約においては、都市計画事業実施のため明渡を必要とする日までを賃貸借の期間と定めたものとみられるのであり、同被上告人においても右区画整理に関する事情を諒承して契約をしたものであることは、所論引用の公正証書(甲第一号証の二)二〇条の文言等記録に現われたところに照らして窺われるところである。

もつとも、被上告人B1との間の賃貸借契約に関する公正証書(甲第一号証の一)には、期間を前示のとおり定めるのみで、右区画整理に関する事項は記載されていないが、その期間も必ずしも長期とはいえないばかりでなく、同被上告人と被上告人B2とに関して契約の事情を異にするごとき形跡は記録に照らしてもなんら窺われないのであるから、被上告人B1においても右区画整理実施に関する事情を諒承して右期間の定めに応じたものと推測することができないものではない。

もし右のような事実が認定されるとすれば、このように、土地賃貸借契約のさい、都市計画事業の施行による区画整理が予定され、賃貸人においてその実施後の土地を自ら使用する計画を有し、貸借人もこれを諒承し、地上に仮設建物のみを所有しうる一時使用のための賃貸借であることを公正証書に明記して、契約を締結した場合においては、一時使用目的による賃貸借をする合理的理由があり、借地法の規定の適用を潜脱する目的に出たものとはいえないから、一時使用のため借地権を設定したことが明らかな場合にあたるものと認めて妨げないものと解すべきであり、原判決の掲げる前示のような事実関係をもつてしては、いまだこのように認めることを妨げるには足りないものというべきである。

しかるに、原判決は、右事実関係を理由に、たやすく本件各賃貸借が一時使用のためのものとは認められないとして、上告人の請求を排斥しているのであつて、ひつきよう、借地法九条の規定の解釈を誤り、経験則に反し、審理を尽さなかつた違法があるものといわなければならない。

なお、本件旧土地につき仮換地の指定があつたことは前示のとおりであり、上告人は、被上告人らが現に仮換地上に建物を所有しこれを占有しているとして建物収去、仮換地の明渡を求めるものであるところ、記録に照らしても、従前地の各一部の貸借人である被上告人らにおいて仮換地につき施行者から使用収益しうる部分の指定を受けた形跡がない。

しかして、仮りに従前地についての賃貸借契約が有効に存続し、その終了を理由とする上告人の本訴請求が理由がないものとされるとしても、被上告人らに対する使用収益部分の指定がないとすれば、被上告人らは仮換地を使用収益する権原を有しないのであるから、上告人は、従前地の所有地として指定を受けた仮換地を使用収益しうる権原に基づき、被上告人らに仮換地の明渡を請求しうることとなるのであり、原審における弁論の趣旨に徴すれば、上告人においてかかる請求をもする意思を有することが窺われないではないから、なお上告人の主張の趣旨を釈明し、この点に関する事実関係をもあわせて審理すべきものである。

よつて民訴法四〇七条一項により原判決を破棄しさらに審理を尽させるため本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。