最高裁判例
事件番号 昭和44(オ)1017
事件名 建物収去土地明渡請求
裁判年月日 昭和47年2月10日
参照法条 借地法9条

主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。

理 由
上告代理人の上告理由第一点について。
原判決は、上告人がその賃借土地上に所論仮設建築物の認可申請書を提出した事実のみによつて当初上告人と被上告人らの先代Dとの間に成立した賃貸借をもつて一時使用のための賃貸借であると認定したのではなく、上告人が右Dから本件土地を賃借するに至つた経緯、賃貸借成立の際の合意の内容等をも斟酌して、右の認定判断に到達したものであることは、原判文に照らして明らかである。

そして、原判決は、上告人の主張にそう、本件賃貸借が当初から普通建築物所有を目的とするものであつたとする証人および当事者本人の供述についても、上告人においてみずから仮設建物を建築する旨の県知事宛書類を作成した事実のみによつてこれを排斥したのではなく、一時使用のための賃貸借である旨を認定するにつき挙示した証拠関係をも斟酌していることが判文上明らかであり、

右の申請書類が作成された事実はその一つの事情として掲げられたものにすぎないから、原判決にいまだ所論の違法があるとはいえない。したがつて、論旨は採用することができない。

同第二点および上告代理人椎木緑司の上告理由第一点について。
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決拳示の証拠関係に徴し、いずれも正当として肯認することができる。

そして、原審の確定した事実関係のもとにおいては、昭和二五年三月に締結された土地賃貸借契約および昭和三〇年三月に締結された土地賃貸借契約はともに一時使用を目的とする賃借権を設定したものであるとする原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

また、所論は、被上告人らが第一審においてした昭和三〇年三月に成立した賃貸借契約は普通建物の所有を目的とするものであるとの主張を、のち原審に至り一時使用のためになされた賃貸借であるとの主張に改めた点につき、原審が右は自白の撤回にあたるとしながら錯誤に基づくものとして撤回を許したのは、錯誤を生ずる理由がないから、違法であるというが、本件記録に徴すれば、被上告人らの先代Dは、第一審においては、上告人の不信行為および賃料不払いを理由として契約解除の意思表示をしたことによつて賃貸借契約が終了したものとして、本件土地の明渡を求めていたにすぎないことが明らかであるから、本件賃借権が一時使用のために設定されたものであるか、普通建物の所有を目的として設定されたものであるかは、いまだ自白の対象たる主要事実とはなつていなかつたものというべきである。

したがつて、原審において被上告人らが右賃貸借をもつて一時使用のためのものである旨の主張をしたからといつて、自白の撤回と解すべ余地はない。そして、右の点に関する原審の判断の当否は、その結論に影響を及ぼすものではないから、この点に関する論旨も理由がない。

上告代理人の上告理由第二点について。
本件賃貸借契約が借地法九条所定の「一時使用ノ為借地権ヲ設定シタルコト明ナル場合」にあたるものとする原審の認定判断が是認できることおよび被上告人らが原審においてした本件賃貸借が一時使用のためのものである旨の主張が自白の撤回と解すべきものでないことは、すでに説示したとおりである。

また、記録に徴しても、上告人が原審において被上告人らの右賃貸借が一時使用のためのものであるとの主張について民訴法一三九条による却下の申立をした事実は認められないから、同条が適用されるべきものとする論旨は不適法に帰する。論旨はすべて採用することができない。

同第三点について。
所論は、被上告人らの本件土地明渡請求が、被上告人らの土地所有権に基づく物上請求権の行使としての主張であることおよび原判決もまたかかる主張として右請求を認容したことを前提とするものと解される。

しかし、被上告人らは、原審において、本件係争地全部につき賃借権が成立しているならば、その全部を契約期間の満了を理由に明渡を求める旨主張したことが、記録および原判決の事実欄の記載により明らかであり、原判決もまた、本件係争地の全部につき一時使用のためにする賃貸借の成立を認め、被上告人らの右主張に基づき本件係争地全部に対する賃貸借契約は期間の満了により終了したものとして、これを理由にその明渡と明渡義務の遅滞を理由とする遅延損害金の支払を命じたものであることが明らかである。

してみれば、右の点の論旨はその前提を欠くものといわなければならない。もつとも、原判決は、本件係争地のうち原判示六坪の賃借部分をこえる土地部分につき、上告人において昭和二七年一一月一日から同三〇年二月末日までの間右土地を不法に占有したものとして、上告人に対し一か月五〇〇円の割合による損害賠償金の支払を命じており、右は被上告人らの土地所有権の侵害を理由とする不法行為の成立を肯認したことによるものであるが、かりに、所論のように、前記土地部分が、前記の期間において、土地区劃整理事業施行地域内にあり、しかも、換地予定地ないし仮換地の指定がなされていて、被上告人らはその使用収益権を侵害されたものと解するのが正当であるとしても、上告人が前示のような不法行為に基づく損害賠償義務を負担すべきことに変りはないのである。

してみれば、この点に関する論旨もまた原判決の結論に影響を及ぼすものでないことが明らかである。論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。